妊娠中・授乳中に美容皮膚科で最も多く延期される施術は、注入系(ボツリヌス製剤・フィラー)、多くのレーザーや高周波・超音波機器、内服の処方薬(イソトレチノインなど)、ケミカルピーリング全般です。理由は「危険だと証明されているから」ではなく、その逆で、妊娠中の方を対象とした安全性試験がほとんど行われていないため、安全だと確認できていないからです。医療の世界では、確認できていないものは「使わない」が原則になります。
一方で、この時期にできることがゼロになるわけではありません。保湿・低刺激の洗浄・日焼け止め・肌状態の記録といった土台のケアは続けられますし、それ自体が産後の治療計画をやりやすくします。
そしてもう一つ、この記事で一番お伝えしたいことがあります。妊娠中に出てきた肌の変化の多くは、時期そのものが治療計画の一部だという点です。特に妊娠中に濃くなった肝斑(かんぱん)は、産後にホルモンが落ち着くにつれて自然に薄くなることがあり、その落ち着きを待たずに焦って治療を始めると、かえって遠回りになることがあります。急ぐことより、待つことのほうが結果につながる——これは美容医療の中でも珍しい状況です。
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なぜ「危険」ではなく「確認できていない」なのか

妊娠中の方を対象に、美容目的の施術で臨床試験を行うことは、倫理的に基本的に許されません。お腹の赤ちゃんに何かあったときのリスクを、美容という目的のために引き受けさせることはできないからです。
その結果、多くの美容施術は「妊娠中に有害だと示すデータもないが、安全だと示すデータもない」という状態のまま置かれています。ここで医師が取る立場は世界共通で、データがない以上は行わないです。
この違いは、実は患者さんにとって大切です。「その施術は妊婦さんに危険です」と言われるのと、「妊娠中のデータがないので、この期間は控えて、産後に計画しましょう」と言われるのとでは、意味がまったく違います。もし妊娠に気づく前に何かの施術を受けていたとしても、それが直ちに問題を意味するわけではありません。ただし自己判断せず、産婦人科の担当医に必ずご相談ください。ここは美容皮膚科ではなく、妊娠を診ている医師の領域です。
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妊娠中・授乳中に延期されることが多い施術(韓国のクリニックでも同様です)
韓国のクリニックだから基準がゆるい、ということはありません。むしろ問診票の段階で妊娠・授乳の有無を確認し、該当する場合は施術そのものをお断りする、というのが一般的な運用です。以下は延期の対象になりやすいものです。
注入系(ボツリヌス製剤・各種フィラー) シワやエラ、輪郭の注射、ヒアルロン酸フィラーなどは、妊娠中・授乳中には行わないのが標準的な扱いです。安全性を裏づけるデータがないためで、「量が少ないから大丈夫」という判断はしません。
レーザー・高周波・超音波などの機器施術 シミ取りレーザー、ピコレーザー、脱毛レーザー、HIFU(超音波リフト)、高周波機器などは、まとめて産後まで見送られることが多いです。エネルギーがお腹の赤ちゃんに直接届くわけではありませんが、痛みや体位、施術中の麻酔クリーム、そして妊娠中の皮膚は色素沈着を起こしやすい状態にあることなど、複数の理由が重なります。
内服薬 ニキビ治療で使われるイソトレチノインは、妊娠中に用いてはならない代表的な薬で、この点は例外なく厳格です。内服中の方は避妊管理や休薬期間についても医師の指示が必須になります。詳しくはイソトレチノイン中の施術タイミングについての記事でも触れています。テトラサイクリン系の抗生物質や一部のホルモン関連薬も同様に、妊娠中は使われません。
ケミカルピーリング・強めの角質ケア 濃度の高いピーリング、サリチル酸(BHA)を使った施術は、この時期には行わないのが通例です。
その他 金の糸・スレッドリフトなどの侵襲的な施術、脂肪溶解注射、医療用タトゥー除去、施術に伴う鎮静や強めの局所麻酔を要するものも、同じ理由で見送られます。
なお、これらはいずれも「一生できない」話ではなく、時期をずらすだけの話です。
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授乳中はどう考えるのか(妊娠中と同じではありません)
授乳中は妊娠中よりも制限が緩やかになる場合がありますが、判断はより個別的です。基準になるのは「その成分や薬が母乳に移行するか」「移行するとして赤ちゃんに影響するか」という点で、施術の種類ごとに事情が違います。
そのため、授乳中の方が問い合わせをされた場合、クリニック側が即答せず「産婦人科または小児科の先生にご確認ください」とお伝えすることがあります。これは責任逃れではなく、授乳の状況(完全母乳か混合か、月齢はどれくらいか)を把握している医師でないと判断できないからです。
授乳中の施術を検討される場合は、カウンセリングの予約時点で「授乳中です」と先に伝えてください。当日に判明してその場でお断りする、という形は、渡航して来られた方にとって時間の無駄になってしまいます。
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一般に問題になりにくいとされるケア(ただし断定はできません)
「妊娠中に絶対安全」と言い切れる美容医療は存在しません。ですので以下は「多くの場合、妊娠中でも続けて問題にならないとされているもの」という表現になります。それでも、実際に使う前に産婦人科の担当医に確認していただくのが確実です。
保湿とバリアケア セラミド、ヒアルロン酸、グリセリン、ワセリンといった保湿成分は、この時期の肌荒れ・かゆみ・乾燥に対して現実的な選択肢です。妊娠中はお腹まわりだけでなく顔の乾燥が強くなる方も多くいらっしゃいます。
日焼け止め 妊娠中のスキンケアの中で、優先度としては最上位です。この時期はメラニンが活性化しやすく、シミや肝斑が濃くなりやすい状態にあります。今の日焼け対策が、産後に治療する量そのものを減らします。紫外線散乱剤(酸化亜鉛・酸化チタン)ベースのものは刺激が少なく、この時期に選ばれることが多いタイプです。
低刺激の洗浄と、シンプルにすること 妊娠中は肌が敏感に傾く方が多いので、工程を増やすよりも減らすほうがうまくいきます。新しい成分をあれこれ試す時期ではありません。
アゼライン酸・グリコール酸(低濃度) 妊娠中も使用可能とされることが多い成分ですが、こちらも自己判断ではなく主治医の確認を経てからにしてください。
避けられることが多い外用成分 レチノイド(レチノール、トレチノイン、アダパレンなど)、高濃度サリチル酸、ハイドロキノンは、妊娠中は中止するよう案内されるのが一般的です。ハイドロキノンは皮膚からの吸収率が比較的高いことが理由として挙げられます。
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妊娠中に出る肌の変化は、産後に自然に軽くなることがあります
これが冒頭で申し上げた「時期のほうが大事」という部分です。
肝斑(妊娠性肝斑) 妊娠中に頬や額に左右対称の茶色い色ムラが出てくることがあります。ホルモンの影響が大きく、出産後、数か月から1年ほどかけて自然に薄くなっていく方もいらっしゃいます。すべての方がそうなるわけではなく、残る方もいます。
ここが判断の分かれ目です。産後すぐに「早く消したい」とレーザーに行くと、まだホルモンが動いている時期の肌に刺激を加えることになり、肝斑はかえって濃くなりやすいという性質があります。肝斑は他の色素性疾患と違い、強い施術に反発する性質を持っています。この違いについてはシミ・そばかす・肝斑の見分け方の記事で詳しく書いています。
現実的な進め方は、産後・授乳終了後にしばらく日焼け対策と保湿だけを続けて肌を落ち着かせ、その時点で「自然に薄くなった分」を差し引いてから、残ったものに対して治療計画を立てる、という順序です。急がないことが、そのまま施術回数を減らすことにつながります。
その他の変化 妊娠線、乳輪や脇・首まわりの色素の濃さ、正中線(お腹の縦線)なども、産後に薄くなる方が多い変化です。ただし妊娠線については、いったんできた線が完全に元通りになることはなく、時間とともに赤みが引いて目立ちにくくなる、というのが正直な説明になります。
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妊娠中の肌トラブルは「美容」ではなく「治療」として診てもらう選択肢があります
妊娠中に強いかゆみ、湿疹、急に悪化したニキビが出た場合、それは美容の相談ではなく皮膚疾患の診療です。妊娠中でも使用できる外用薬・内服薬は存在し、産婦人科と皮膚科が連携して処方します。
「妊娠中だから何もできない」と我慢して、かゆみで眠れない状態を続ける必要はありません。美容施術は延期の対象ですが、症状の治療は別枠です。この線引きは、ご自身の負担を減らすうえで知っておく価値があります。
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韓国・ソウルでの施術を考えている方へ:計画の立て方
渡航を伴う場合、時期の設計がより重要になります。
妊娠がわかっている、または妊活中の場合 渡航して施術を受ける計画は、いったん保留にするのが現実的です。予約を取って渡航し、当日カウンセリングで「妊娠中なので施術できません」となるのが最も避けたい形です。
産後の渡航を考えている場合 授乳が終わっているかどうかで選択肢が大きく変わります。授乳終了後であれば、多くの施術が通常どおり検討できます。授乳中の場合は、予約段階で必ずその旨を伝え、受けられる施術と受けられない施術を事前に確認してください。渡航前のオンラインでの事前相談が、この段階では特に役に立ちます。
産後、いつから始められるか 一律の日数はありません。分娩の経過、体調の回復、授乳の状況によって変わるため、まずは産婦人科の担当医に「美容施術を再開してよい時期」を確認していただくのが順序として正しくなります。その回答を持って美容皮膚科のカウンセリングに来ていただければ、話が早く進みます。
産後の1回目は、いきなり本命の施術ではなく診断から 産後の肌は、妊娠前とは状態が変わっていることが少なくありません。乾燥の度合い、色素の分布、たるみの出方が以前と違うのに、妊娠前のメニューをそのまま再開すると噛み合わないことがあります。MIO Clinicでは施術前にAIによる肌・顔の分析を行い、その時点の状態を見てから何をどの順で行うかを決めています。特に産後は、まず現状を測ってから計画を立て直すほうが、結局は近道になります。肌診断機で何がわかるのかについての記事も参考になさってください。
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費用の目安について
この時期に関して申し上げると、費用の話は産後にしていただくのが実際的です。妊娠中は施術自体を行わないため、見積もりを取る意味がありません。
産後に検討される場合、韓国・ソウルの美容皮膚科の一般的な価格帯として、色素治療のレーザーは1回あたりおおよそ100,000〜300,000ウォン(約11,000〜33,000円)程度から、肝斑向けのトーニング系は1回あたり80,000〜200,000ウォン(約9,000〜22,000円)程度から始まることが多い、という水準感です。これはソウル市場の一般的な目安であり、特定のクリニックの価格ではありません。また色素治療は複数回で組み立てるものなので、1回の金額だけでは総額が見えません。
最終的な費用は、範囲・回数・肌の状態によって変わるため、診察前に確定した金額をお出しすることはできません。この点は正直にお伝えしておきます。
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この記事のまとめ:判断の順序
- 妊娠中・授乳中は、注入系・機器施術・内服・ピーリングを延期する(危険だからではなく、安全性が確認されていないため)
- 保湿・日焼け止め・低刺激の洗浄は続ける。特に日焼け止めが、産後の治療量を減らす
- 妊娠中に濃くなった肝斑は、産後に自然に薄くなる可能性がある。焦って治療を始めると濃くなることがある
- かゆみ・湿疹など症状のあるものは、美容ではなく治療として診てもらう
- 再開時期は、まず産婦人科の担当医に確認してから美容皮膚科へ
- 産後の1回目は、いきなり施術ではなく現状の診断から
美容医療のほとんどの場面では「早く始めたほうがいい」ことが多いのですが、この時期だけは違います。待つことが、そのまま治療計画の一部になります。
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FAQ
Q. 妊娠に気づく前にボトックスやフィラーを受けてしまいました。大丈夫でしょうか。 A. 直ちに問題を意味するものではありませんが、ここでの判断は美容皮膚科ではなく、妊娠を診ている産婦人科の担当医が行う領域です。施術の内容と受けた時期をできるだけ正確に伝えて、必ずご相談ください。ご自身で結論を出さないでください。
Q. 授乳中ですが、脱毛レーザーは受けられますか。 A. 授乳中の施術可否は個別判断になり、クリニックによって方針が異なります。予約の段階で授乳中であることを伝え、事前に確認してください。当日に伝えると、施術できずに帰ることになる可能性があります。
Q. 妊娠中に肝斑が濃くなりました。すぐ治療を始めたほうがいいですか。 A. 一般的にはおすすめしません。妊娠中は施術自体を延期しますし、産後もホルモンが落ち着くまでに数か月から1年ほどかかることがあり、その間に自然に薄くなる方もいらっしゃいます。まずは日焼け対策を徹底し、落ち着いた時点で残った分に対して計画を立てるほうが、結果的に回数も費用も少なく済むことが多いです。
Q. 妊娠中でも使えるスキンケア成分と、やめたほうがいい成分を教えてください。 A. 一般に続けられるとされるのは、セラミド・ヒアルロン酸・ワセリンなどの保湿成分、紫外線散乱剤ベースの日焼け止めです。中止するよう案内されることが多いのは、レチノイド類(レチノール・トレチノイン・アダパレン)、高濃度サリチル酸、ハイドロキノンです。ただし、ご自身の判断ではなく主治医に確認したうえで決めてください。
Q. 産後どのくらいで美容皮膚科に行けますか。 A. 一律の日数はありません。分娩の経過や回復状況、授乳の有無によって変わるため、まず産婦人科の担当医に再開時期を確認してください。その回答を持ってカウンセリングにお越しいただければ、その時点の肌状態を見て計画を立てられます。
Q. 妊娠中のかゆみや湿疹も我慢するしかないのでしょうか。 A. その必要はありません。それは美容施術ではなく皮膚疾患の治療にあたり、妊娠中でも使用できる外用薬・内服薬があります。産婦人科と皮膚科で連携して対応してもらえますので、症状がつらい場合は我慢せずご相談ください。
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